活動報告

2011年5月12日

原発事故と白血病のリスクについて

がん・感染症センター都立駒込病院放射線科 唐澤克之

本年3月11日の東北関東大震災にともなう津波により、東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生し、大量の放射性物質が現在も放出され続けています。

放射線被ばくによる副作用としてがんや白血病になるリスクが増加するということが指摘されていますが、その被ばくの量と具体的なリスクの大きさとの関係について、考えてみましょう。

まず被ばくには外部被ばくと内部被ばくがあります。外部被ばくは空気中を漂う、もしくは土壌に積もった放射性物質により身体の外部から受ける被ばくのことです。内部被ばくは放射性物質により汚染された水や食材等の摂取により、放射性物質が体内に入り、体内から被ばくを受けるものです。

最近では国の監視が行き届くようになり、内部被ばくは許容限度以下で防ぐことができるようになってきました。 放射線被ばくの有害反応である発がんは、被ばく線量の増加に比例して増加する確率的影響されています。放射線による急性反応が起こる被ばく線量である100mSv(ミリシーベルト)以下の範囲では直線的な関係にならず、よりリスクは低いと考える学説もありますが、ここでは最悪のケースを想定して、低線量でもその比例関係が成り立つとしてリスクを評価してみましょう。

国際放射線防護委員会の勧告によりますと1Svの被ばくにより、生涯で5%の人が発がんするとされています。そのうちおよそ1割の人が白血病になるとされています。

現時点で福島県外ではほとんどが0.1μSv/h以下の空間線量率です。よってその環境にずっといることで年間(約9000時間)に1mSvを外部被ばくする計算になります。仮に今後10年間この線量率が続くとすると、10年で10mSvになります。

その線量では生涯で1万人に5人の人ががんに10万人に5人の人が、白血病になります。一方白血病の罹患率は2006年では年間で人口10万人当り5.9人ですので、誤差の中に含まれてしまうことがお分かり頂けると思います。

よって福島県以外にお住まいの方は、この状況が続けば、リスクは小さく抑えられると考えてよいと思います。但し福島県内では空間線量率は高く、これらの10倍、100倍の空間線量率の地点があり、それに比例して発がんのリスクも上昇しますので、注意が必要です。

福島県外では白血病になるリスクが十分少ないことがお分かり頂けたと思いますが、次に被ばくをさらに低くする工夫をいくつか挙げてみます。まず、原子炉の爆発が起きた時には大量の放射性物質が放出されます。そして、風に乗って運ばれますので、風下に当たる地域は注意が必要です。

また雨が降ると、上空の放射性物質が纏まって落下しますので、地上の線量率は上昇します。特に水たまりの線量率が高いですので、注意が必要です。

以上の様なことをしっかり注意していれば、原発からある程度離れた地域にお住まいの方は、白血病の心配は殆どありません。むしろ過剰に恐れるあまり、社会経済活動が落ち込み、それによって齎される政情不安の方が、甚大な被害を我が国に齎すと考えられます。

また国民が受ける原発からの放射線被ばくは全く無益なものですから、このまま速やかに無事終息することを祈っています。

唐澤克之

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